2025-12-19

非常時に開かないドアが命を奪う!

12月15日、東京都内のサウナで火災が発生し、夫婦お二人が亡くなるという痛ましい事故がありました。
報道によると、サウナ室のドアが開かず、逃げることができなかった可能性があるとのことです。
そこで今回は、屋内にいる際に災害が発生した場合、避難の妨げとなり得る「ドア」について考えてみたいと思います。
実は、どのようなドアを設置するかによって、災害発生時の避難のしやすさには大きな差が生じます。
これからご自宅を新築される方、あるいはリフォームを検討されている方は、ぜひ以下の内容を踏まえてドアを選んでいただければと思います。

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◆ドアの種類について
私たちの身の回りにはさまざまなドアがありますが、一般的なものは次の3種類です。
※以下、「内開き」「外開き」は室内側から見た開き方を指します。
① 外開きドア
② 内開きドア
③ 引き戸(スライドドア)
さて、皆さんのご自宅の玄関ドアは、どれに当てはまるでしょうか。
多くのご家庭では、①の外開きドアが採用されています。
一方、テレビドラマや映画で見る欧米の一般住宅では、②の内開きドアが一般的です。
また、③の引き戸は、ホテルなどでよく見かけます。

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◆ 日本で「外開き」が主流となった理由
日本の住宅で外開きドアが主流になった背景には、生活習慣と気候が深く関係しています。
「靴を脱ぐ習慣(スペースの確保)」
日本の玄関には「たたき」と呼ばれる靴を脱ぐスペースがあります。
内開きにすると、脱いだ靴がドアに引っかかったり、ドアが靴に当たって全開できなかったりする恐れがあります。
限られた玄関スペースを有効に使うため、外開きは合理的な選択でした。
「雨水を室内に入れない」
日本は降雨量が多く、台風も頻繁に上陸します。
外開きドアは、開閉時にドアに付着した雨水や汚れが室内に落ちにくい構造です。
また、強風時にはドアが外側から枠に押し付けられるため、密閉性が高まり、浸水を防ぎやすくなります。

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◆ 海外で「内開き」が多い理由
欧米で内開きドアが一般的なのは、主に防犯の歴史に由来します。
想像してみてください。
重いドアを開けるとき、「引く」のと「押す」のでは、どちらが力を入れやすいでしょうか。
不審者が無理やり侵入しようとした場合、内開きドアであれば、家の中から全体重をかけてドアを押し返すことができます。また、家具を使って簡易的なバリケードを作ることも容易です。
さらに、ドアの可動部である蝶番が室内側にあるため、外部から壊されてドアを外されるリスクも低くなります。
加えて、内側に開く動作は「どうぞ中へ」と招き入れる所作に通じるとされ、文化的・心理的背景も影響しているといわれています。

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◆ なぜ日本では「防犯」より「靴」が優先されたのか
かつての日本の住宅は引き戸が主流で、「鍵をかけずに近所付き合いができる」ほど治安が良い社会でした。
そのため、欧米のように「ドアを押し返して侵入を防ぐ」という発想よりも、
• 雨の多い気候への対応
• 狭い空間を効率的に使う工夫
• 清潔で快適な生活
といった点が優先され、外開きの開き戸が定着したと考えられています。

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それぞれのドアの長所と短所
1.内開き(室内側に開くドア)
◆ 長所
• 風圧や人の衝突で急に開いてしまうリスクが低い
• 廊下や通路を塞がず、共用廊下の幅を確保しやすい
• 蝶番が室内側にあり、防犯性を確保しやすい
◆ 短所(災害時)
• 地震で家具や落下物が倒れると開かなくなる
• ドアが押さえつけられ、脱出不能になる恐れが高い
• 開いたドアが避難経路を塞ぐ場合がある
◆ 評価
地震時の閉じ込めリスクが高く、災害対策の観点では注意が必要。

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2.外開き(室外側に開くドア)
◆ 長所
• 室内に物が倒れても押して脱出しやすい
• パニック時でも直感的に操作できる
• 地震時の避難安全性が高い
◆ 短所
• 共用廊下や通路を塞ぐ恐れがある
• 浸水時には水圧で開かなくなる
• 蝶番の防犯対策が必要
◆ 評価
避難安全性は最も高いが、共用部との関係に配慮が必要。
(※一部マンションでは、外開きでも通路に干渉しない設計が採用されています)

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3.引き戸(スライドドア)
◆ 長所
• 建物の歪みに強く、開閉できる可能性が高い
• 力が要らず、高齢者や子どもにも扱いやすい
• 避難動線を塞がない
◆ 短所
• レールに瓦礫や砂が入ると動かなくなる
• 耐火・気密性能が劣る場合がある
• 施錠性能は構造次第
◆ 評価
総合的に災害に強いが、品質と施工精度が重要。

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法令上「外開き」が求められるケース
建築基準法(施行令)などでは、避難・防火に関わる特定の条件下で、扉の開き方が規定されています。
• 避難階段や避難口に通じる扉
• 不特定多数が利用する劇場・映画館・公会堂などの出口
これらは、避難方向に開くことが求められています。
大勢の人が一斉に逃げる際、「押して開く」ことができるようにするためです。

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まとめ(一覧)
ドア一覧表.jpg     
※水害時の注意
地下室のドアは内開きが必須とされます。
浸水時、外開きドアは水深20~30cmで開けるのが困難になり、50cmを超えるとほぼ開放不能となります。
(水圧は水深の二乗に比例して増加します)
水深 ドアにかかる荷重
ドアと水圧.jpg

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おわりに
以前沖縄に住んでいたころ、超大型の台風が南西諸島を蹂躙し、久米島ではホテルの客室の窓ガラスが風で割れてしまいました。
ホテルとドアは内開きのため、吹き込む風の風圧で客室のドアが開かなくなってしまいました。
このホテルは、ドアが木製ドアだったため、斧でドアを破壊して中にいた宿泊客を救助したそうです。
ドアの特性を理解したうえで、自宅や職場、よく利用する施設の避難経路を一度シミュレーションしておくことが重要です。

なお、ドアについて調べている中で、首都直下地震の新たな被害想定が公表されました。
2013年の想定から何が変わったのか、改めて検証したうえで、またご報告したいと思います。

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